2026年F1技術規則C18条:パワーユニット部品の4分類制度を解説
2026年から導入されるLPUC・SSPUC・OSPUC・DSPUCの4分類制度を解説。PU開発の競争領域と共有領域が明確化され、チーム間の技術格差にも大きく影響します。
C18条とは何か——パワーユニット部品を4種類に仕分けるルール
2026年のF1技術規則には、パワーユニット(PU: Power Unit)を構成する部品を4つのカテゴリーに分類する「Article C18」が設けられています。ひとことで言えば、「どの部品を自由に開発してよいか」「どの部品は全チームで共通化するか」を明文化した制度です。
従来のF1では、PUメーカーが開発できる範囲とそうでない範囲の区別が比較的曖昧な部分もありました。2026年規則ではこれを4分類に整理することで、競争領域とコスト削減領域を明確に区別しています。
4つのカテゴリーは以下のとおりです。
| 略称 | 正式名称 | 一言説明 |
|---|---|---|
| LPUC | Listed PU Components | 各PUメーカーが独自に設計・開発する部品 |
| SSPUC | Standard Supply PU Components | FIAが指定サプライヤーから全メーカーに同一品を供給 |
| OSPUC | Open-Source PU Components | 設計情報を全メーカーで共有・利用できる部品 |
| DSPUC | Defined Specification PU Components | FIAが仕様を定め、複数のサプライヤーが供給できる部品 |
どの部品がどのカテゴリーに該当するかは、規則の付録C4(Appendix C4)に一覧が定義されており、デフォルトの分類はLPUCです(C18.1.1(b))。判断が難しい場合はFIAに問い合わせることが認められています。
4つのカテゴリーを深掘りする
LPUC——PUメーカー固有の競争領域
LPUCは各PUメーカーが独占的に設計・製造し、知的財産(IP: Intellectual Property)を保持する部品です。エンジン本体の内燃機関(ICE: Internal Combustion Engine)やターボチャージャー(TC: Turbo Charger)の主要コンポーネントがここに含まれると考えられます。
重要なのは、設計や製造を外部企業にアウトソーシングすること自体は認められている点です。ただしその場合、以下の3条件をすべて満たす必要があります(C18.2.2)。
- そのPUメーカーがF1参戦中、F1での使用に関する独占的な権利を保持すること
- 製造委託先が別のPUメーカーまたはその関連会社でないこと
- 知的財産の独占的所有権を当該PUメーカーが持つこと
また、他のPUメーカーへのデータ・設計・シミュレーションソフトウェアの提供や、他メーカーからのコンサルティング受領は一切禁じられています(C18.2.3)。
SSPUC——FIA指定の完全共通部品
SSPUCは、FIAが選定したサプライヤーが全PUメーカーに技術的・商業的に同一の条件で供給する部品です。
このカテゴリーには厳格な制約が伴います(C18.3.4・C18.3.5)。
- 改造は一切禁止。サプライヤーの指示どおりに取り付け・運用しなければならない
- SSPUCの機能をほかの部品で代替・補完・迂回することも禁止
- 互換性・信頼性・安全性に問題が生じた場合は、FIAおよびサプライヤーに速やかに報告する義務がある
例外的にFIAが単独の裁量で代替部品の使用を認める場合がありますが、その許可は全PUメーカーに通知されます。さらに、SSPUCの供給体制が崩れた場合(サプライヤー選定失敗や契約終了など)、FIAはそのカテゴリーをLPUC・OSPUC・DSPUCのいずれかに再分類できます(C18.3.3)。
OSPUC——設計をオープンソースで共有する部品
OSPUCはソフトウェア開発における「オープンソース」の概念をPU部品に適用したものです。設計仕様(Design Specification)をFIA指定のサーバーに登録し、全PUメーカーが自由に利用・改変できます。
このカテゴリーの運用ルールは以下のとおりです(C18.4.3〜C18.4.8)。
- 新たにOSPUCを設計または改変したPUメーカーは、FIA指定サーバーに設計仕様をアップロードする義務がある
- アップロードした設計の知的財産に対し、他の全PUメーカーへ取消不能・無償・非独占的・全世界ライセンスを付与しなければならない
- 第三者のIPが含まれる場合は、その旨を明示したうえで当該第三者の承認が必要
- 使用するOSPUCのバージョンをFIAに申告する義務がある
- 信頼性・安全性の問題が発覚した場合、FIAと全メーカーへの即時開示義務がある
なお、OSPUCについても、特定のメーカーのパフォーマンス向上につながる情報を他メーカーへ渡すことや、受け取ることは禁じられています(C18.4.11)。
DSPUC——FIAが仕様を定め、複数サプライヤーが競う部品
DSPUCはFIAが技術仕様の大枠を定め、PUメーカー自身が製造するか、承認を受けた第三者サプライヤーから調達するかを選べる部品です。SSPUCと異なるのは、供給者が複数存在でき、PUメーカー自身もサプライヤーになれる点です(C18.5.2)。
仕様変更には参加PUメーカーの過半数(早期変更なら75%)の同意が必要で(C18.5.3)、一度確定した仕様は少なくとも2年間は維持されます(C18.5.4)。新たなDSPUCサプライヤーになるには、参戦年の前年1月1日までにFIAに詳細な技術資料と商業条件を提出し、30日以内の審査を受ける必要があります(C18.5.5)。
2026年における重要なポイント
情報遮断の徹底
C18条で最も厳格に規定されているのが、PUメーカー間の情報遮断です。C18.1.4では人員移動を通じたルール回避も明示的に禁止されています。社員・コンサルタント・派遣社員を問わず、LPUC関連の知識を持つ人員が別のPUメーカーへ移ることで情報が渡るようなケースも規制対象です。
また、C18.1.9ではテスト施設・設備の共有禁止も明記されています。商業的にすべてのPUメーカーが利用できる施設の共同利用は許可されますが、その場合でも共通スタッフを通じた知的財産の流出防止策を講じることが義務付けられています。
OSPUCの初年度移行措置
C18.4.9・C18.4.10には移行期間の特別規定があります。ある部品が初めてOSPUCに指定された年をN年とすると、PUメーカーは前年(N-1年)の7月15日までに、当時使用していた同等部品の設計をサーバーにアップロードしなければなりません。また2022年シーズンに参戦していたPUメーカーについては、2022年12月31日までに当時の設計を提出することが義務付けられていました。これは2026年規制への円滑な移行を促すための措置です。
レース・チーム戦略への影響
開発リソースの集中が可能に
LPUCの範囲が明確化されたことで、PUメーカーは開発コストをかけるべき部品とそうでない部品を明確に把握できます。SSPUCやOSPUCとして共通化された部品への投資を減らし、ICEやターボなど差別化につながるLPUC開発にリソースを集中させる戦略が立てやすくなります。
カスタマーチームへの影響
PUを購入する側のチームにとっては、SSPUCとDSPUCの存在が重要です。全メーカーが同一品を使うSSPUCの性能差はゼロですが、LPUCの性能差は依然としてPUメーカーの開発力に依存します。つまり、どのPUサプライヤーと組むかは、LPUCの競争力を選ぶことと同義です。
サプライヤー供給リスクへの備え
SSPUCの供給体制が崩れた場合、FIAが当該部品をLPUCやOSPUCに再分類できるという規定(C18.3.3)は、全チームに影響します。突然の再分類が発生すると、LPUCとして自社開発が求められるPUメーカーには設計対応の負担が生じます。このリスクは特に小規模メーカーにとって無視できない要素です。
読者が特に押さえておくべき条文ピックアップ
C18.1.6・C18.1.7——知的財産の共有・移転を全面禁止
PUメーカー間での知的財産の授受を「直接・間接を問わず」禁止しています。さらにC18.1.7では、2社以上のPUメーカーによる事実上の合流(知識共有・合弁・M&A・サービス契約など)も規則違反として列挙されています。F1の参戦撤退が発生した際も、その元PUメーカーのIPを別のPUメーカーが取得することは禁止されており、FIAが独自の対応措置を取れると明記されています。
C18.2.5——商用品の利用は認められるが抜け穴は封じられる
LPUCの開発において、市場で広く入手できる部品材料やサービスを使うことは認められています。ただしFIAは、そういった「商用品の活用」が実質的なLPUCルールの迂回手段になっていると判断した場合、その部品をLPUCに再分類する権限を持ちます(C18.2.5(b))。商用品を活用した「グレーゾーン戦略」が規制されていることを覚えておく価値があります。
C18.4.4——OSPUCに関与したら無償ライセンス付与が義務
OSPUCの設計を作成・改変したPUメーカーは、自動的に他の全メーカーへ無償・取消不能のライセンスを付与しなければなりません。これは「自社が改良したOSPUCを独占できない」ことを意味します。OSPUCに積極的に貢献するインセンティブがどこまであるかは、各メーカーの判断によりますが、全体としての技術水準底上げという観点からFIAが設計したルールです。
まとめ
C18条は「PUの何を競わせ、何を共通化するか」を体系的に定義した規則です。LPUCによる自由競争、SSPUCによる完全共通化、OSPUCによるオープン共有、DSPUCによる管理された多様性——この4本柱の組み合わせが、2026年以降のF1パワーユニット開発の構造を規定します。
規則の細部にはFIAの裁量が多く残されており、今後の運用解釈がパフォーマンス競争に影響を与える場面も出てくるでしょう。引き続きStintでは、こうした規則の動向を追っていきます。